ひとことで言うと、「首の骨と骨のあいだにあるクッションの中身が飛び出して、神経を押してしまう病気」です。
首には7つの骨が縦に積み重なっています。骨と骨のあいだにはクッション(椎間板)があり、衝撃を吸収しています。このクッションは、外側の硬い皮(線維輪)と、中のゼリー状のあんこ(髄核)でできています。ちょうどおまんじゅうのような構造です。
ヘルニアとは ― おまんじゅうの皮が破れる
おまんじゅうの皮(線維輪)に亀裂が入ると、中のみずみずしいあんこ(髄核)がその亀裂を通じて神経の通り道に飛び出してしまいます。これが「ヘルニア」です。ヘルニアとは、ラテン語で「飛び出す」という意味です。あんこ(髄核)は水分をたっぷり含んでいるほど弾力があり、皮が破れたときに外に押し出される力が強くなります。そのため30〜50代の世代に多いのが特徴です。
変性とは ― おまんじゅうが干からびる(ヘルニアとは別の現象)
年齢を重ねると、おまんじゅうのあんこが水分を失って干からび、皮も硬くだれてきます。変性が進むとあんこはパサパサに固くなるため、むしろ飛び出す力がなくなります。その代わり、クッションが潰れたことで骨に余計な負担がかかり、骨のとげ(骨棘)ができるなど、ヘルニアとは別のかたちで神経を圧迫することがあります。
図解|首の骨(頸椎)のしくみ
図解|ヘルニアの仕組み
腰のヘルニアとは何が違うの?
「ヘルニア」と聞くと腰のヘルニア(腰椎椎間板ヘルニア)を思い浮かべる方が多いですが、首にも同じことが起きます。大きな違いは、首の場合は「脊髄」という太い神経の束のすぐそばで起きることです。腰の部分には脊髄は存在しません。そのため、首のヘルニアは重症化すると腕だけでなく、足のしびれや歩行障害など、全身に影響が出ることがあります。
図解|首ヘルニアと腰ヘルニアの違い
医学的な分類
飛び出し方によって、膨隆型(Bulging):椎間板全体がふくらんで広がる、突出型(Protrusion):椎間板の一部が部分的に突出する(最もよく見られるタイプ)、脱出型(Extrusion):髄核が線維輪を完全に破って飛び出す、遊離型(Sequestration):飛び出した髄核がちぎれて分離する——の4つに分類されます。好発部位はC5/6(約40%)、C6/7(約35%)で、この2か所で全体の約75%を占めます。30〜50代に多く、男性にやや多い傾向があります。
なぜ起こるの?
原因は大きく分けて4つあります。
1. デスクワーク(長時間の前かがみ姿勢):パソコン作業で前かがみになると、首のクッションにかかる圧力は通常の1.5〜2倍程度になります。毎日何時間もこの姿勢を続けると、クッションの殻にヒビが入りやすくなります。
2. スマートフォンの使いすぎ(スマホ首):スマホを見るとき、頭は約15度前に傾きます。すると首には約12kgもの負荷がかかります。ボウリングの球を首で支えているようなものです。Hansraj(2014)の研究では、30度で約18kg、45度で約22kg、60度で約27kgに負荷が増加することが示されています。
3. 加齢による変化:30代を過ぎると、クッションの水分が少しずつ減っていきます。すると弾力が失われ、衝撃を吸収しにくくなります。
4. 外傷(ケガ):交通事故のむちうちや、スポーツでの衝撃により、クッションが傷つくことがあります。
1日8時間以上のデスクワーク、1日3時間以上のスマートフォン使用、喫煙習慣のある方は、頸椎椎間板ヘルニアのリスクが高いことがわかっています。心当たりのある方は、日頃から首のケアを心がけましょう。
どんな症状が出るの?
頸椎椎間板ヘルニアの特徴的な症状は「どの指がしびれるか」でヘルニアの場所がわかることです。首から出る神経はそれぞれ担当エリアが決まっているからです。
図解|しびれのパターンマップ
首・肩の痛み
首を動かしたときに痛みが走ります。特に首を後ろに反らしたり、横に倒したりすると痛みが増すのが特徴です。肩こりと間違われることも多いです。
腕・手のしびれ
腕から指先にかけて、ジンジン・ビリビリとしたしびれが出ます。特定の指にしびれが出ることが多く、これがヘルニアの場所を示すサインになります。
肩甲骨まわりの痛み
肩甲骨の内側(背中側)に痛みが出ることがあります。マッサージや湿布では良くならず、首の神経が原因と気づかないことも多いです。
手の力が入りにくい(筋力低下)
お箸がうまく使えない、字が書きにくい、ボタンがとめにくいなど、手先の細かい動作(巧緻運動)がしにくくなります。この症状が出たら早めの受診をおすすめします。
神経根症と脊髄症の違い
神経根症(しんけいこんしょう):ヘルニアが横に出て「枝」の神経(神経根)を圧迫するタイプ。片側の腕にしびれや痛みが出ます。約80%の方が保存療法で改善します。
脊髄症(せきずいしょう):ヘルニアが中央に出て「幹」の神経(脊髄)を圧迫するタイプ。両手のしびれ、箸が使いにくい、歩きにくいなどの症状が出ます。進行性のため、早めの手術を検討することがあります。典型的な症状には、手指の巧緻運動障害(ボタン掛け困難、箸が使いにくい)、10秒テストの異常(10秒間でグーパーが20回できない)、歩行時のふらつきなどがあります。
両手がしびれる、ボタンがとめられない、歩くときにふらつく、排尿しにくい——これらは脊髄が圧迫されているサインです。放置すると回復が難しくなることがあります。できるだけ早く脊椎専門の医療機関を受診してください。
放っておくとどうなるの?
軽い症状のうちは自然に良くなることもありますが、放置して悪化すると、治りにくくなることがあります。
初期:「首が痛い」「肩がこる」
首や肩のこり・痛みが主な症状です。この段階では「ただの肩こり」と思い込む方がほとんどです。整体やマッサージに通い続ける方も多いです。
進行:「腕がしびれる」「指に力が入らない」
神経が圧迫されて、腕や手にしびれ・痛みが広がります。特定の指がしびれたり、握力が落ちたりします。この段階で受診する方が多いです。
重度:「歩きにくい」「箸が持てない」
脊髄が圧迫されると、両手のしびれ、歩行のふらつき、排尿障害など全身に症状が広がります。この段階まで進むと手術が必要になることが多く、回復にも時間がかかります。
かんたんセルフチェック
病院ではどんな検査をするの?
「病院に行ったら何をされるんだろう?」と不安に思われる方も多いと思います。検査の流れをあらかじめ知っておくと、安心して受診できます。
Step 1:お話を聞かせてください(問診・身体検査)
「どの指がしびれますか?」「いつからですか?」などをお聞きします。首を動かしてしびれの出方を確認したり(スパーリングテスト)、腕の感覚・筋力・反射を調べます。これだけで、ヘルニアの場所をかなり絞り込めます。スパーリングテストは首を痛い側に倒して頭の上から軽く押す検査で、感度(見つける確率)は約50%ですが、特異度(間違わない確率)は約90%と非常に信頼性の高い検査です。
Step 2:写真を撮ります(画像検査)
レントゲン:骨の並びや隙間の狭さを確認します。MRI:ヘルニアの大きさ、神経の圧迫具合を詳しく見ます。重要な検査です。CT:骨の状態を立体的に調べます。手術を検討する場合に行います。
Step 3:あなたに合った治療プランをご提案
検査結果をもとに、ヘルニアの大きさ・場所・症状の強さに合わせて、より適切な治療法をご相談しながら決めていきます。お仕事や生活スタイルも考慮します。
どうやって治すの?
「すぐに手術」ではありません。まずはお薬やリハビリから始めます。約80〜85%の方は手術を行わずに症状の改善が見込まれます。
保存療法(まずはここから)
お薬:痛みを抑える消炎鎮痛薬、神経の痛みを和らげる薬(プレガバリンなど)、筋肉の緊張をほぐす薬など。
リハビリ:首まわりの筋肉を鍛えるストレッチや体操。正しい姿勢の指導も行います。
頸椎カラー(首の装具):首を安静に保ち、炎症を抑えます。通常は2〜4週間の短期使用です。
ブロック注射:痛みの原因箇所に直接お薬を注射し、強い痛みを速やかに和らげます。
前方除圧固定術 ACDF(確立された手術法)
3ヶ月程度の保存療法で十分な改善が得られない場合に検討します。首の前側(のどの横)から3〜4cmの小さな切開で行います。傷んだクッション(椎間板)を取り除き、飛び出したヘルニアを除去して神経の圧迫を解放します。椎間板を取り除いた部分には、人工の骨やケージ(支え)を入れて固定します。のどの横から行うので、背中の筋肉を傷つけず、出血も少ないのが特徴です。
図解|前方からの手術アプローチ(首の断面図・上から見た図)
人工椎間板置換術(首の動きを保ちたい場合)
傷んだ椎間板を取り除いた後に、人工のクッション(人工椎間板)を入れる手術です。ACDFと同じく首の前から行います。従来のACDFでは骨を固定するため、その部分の首の動きが制限されます。人工椎間板では首の動きを保てるのが特徴です。隣の椎間板への負担も少なく、再手術のリスクが低いとされています。
ヘルニアの場所・大きさ・骨の状態・年齢・お仕事内容などを総合的に判断して、あなたに適切な方法をご提案します。どちらの手術も入院期間は3〜7日程度で、デスクワークなら2〜4週間で復帰される方が多いです。
よくあるご質問
- Q 頸椎椎間板ヘルニアは自然に治りますか?
- 軽度のヘルニアの場合、約80〜85%の方が保存療法(お薬やリハビリ)で改善します。飛び出したヘルニアの一部が、体の免疫細胞によって吸収されて小さくなることもあります。ただし、脊髄を圧迫している場合や筋力低下が進んでいる場合は、手術が必要になることがあります。
- Q デスクワークが原因になりますか?
- はい、大きな原因の一つです。長時間の前かがみ姿勢は首のクッション(椎間板)に大きな負担をかけます。特にパソコンのモニターが低い位置にある場合や、ノートパソコンを長時間使う場合はリスクが高まります。30分に1回は首のストレッチをすること、モニターの位置を目の高さに合わせることが大切です。
- Q 手術しないと治りませんか?
- いいえ、多くの方は手術なしで改善します。まずはお薬やリハビリで3ヶ月程度治療します。手術を検討するのは、保存療法で改善しない場合、手の力が入りにくくなっている場合、脊髄が圧迫されて歩行に支障が出ている場合などです。
- Q 手術後はどのくらいで仕事に復帰できますか?
- 手術の内容やお仕事の種類によりますが、デスクワークなら2〜4週間、身体を使う仕事なら2〜3ヶ月が目安です。入院期間は3〜7日程度で、退院後は通院しながら徐々に活動量を増やしていきます。
- Q 腰椎ヘルニアとはどう違いますか?
- 場所と影響範囲が異なります。腰椎ヘルニアは腰から足にかけての症状ですが、頸椎ヘルニアは首から腕・手にかけての症状です。頸椎は脊髄が通っているため、重症化すると歩行障害など全身に影響が出ることがあります。腰には脊髄はなく、馬尾(ばび)という細い神経の束があります。
- Q しびれはどの指に出ますか?
- ヘルニアの場所によって異なります。親指側ならC5/C6(第5-6頸椎の間)、中指ならC6/C7、小指側ならC7/T1の間が原因と考えられます。どの指がしびれるかを医師に伝えると、診断の大きな手がかりになります。
- Q 人工椎間板とは何ですか?
- 傷んだクッション(椎間板)を取り除いた後に入れる人工のクッションです。チタンやセラミックなどの素材でできています。従来の固定術と違い、首の動きを保てるのが特徴です。国内外で長期的な有効性・安全性のデータが蓄積されています。
- Q 予防法はありますか?
- 正しい姿勢を心がけることが大切です。パソコンのモニターは目の高さに、スマートフォンはできるだけ目の高さで使いましょう。30分に1回は首をゆっくり回すストレッチを行い、首の筋肉を鍛える軽い運動(等尺性運動など)も効果的です。また、枕の高さを適切に保つことも重要です。
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